パチンコ業界が警察への忖度をやめた裏事情。きっかけは東京五輪開催――2021年ベスト10
公開日:2021-12-24 20:12
目次
人流は増えていないと言うが……
パチンコ オリンピックを理由にした人流も増えていないと言っていたそうだが、都内を移動すると普段は見かけない他県の制服を着た警察官の姿があちらこちらで目に入ってくる。これはオリンピック期間中の警備の応援派遣であり、自粛が要請されている不要不急の移動ではないというのは理解できるものの、その数は1万人以上と報道されている。
これだけの数が東京に集まっているのに人流が増えていないというのは少々疑問を感じざるを得ず、案の定派遣された警察官の宿舎でクラスターが発生したという報道が……。さらに派遣されていた警察官は任務が終わったら各地へ戻ることになるが、それをきっかけに日本各地へ感染が拡大するのではという心配もある。
現場で頑張る警察関係者には敬意を評するが、仮にそうなったら際にはしかるべき立場の人の責任問題ともなるはず。ただしこれまでの動向を見ている限りは、そうなったとしてもうやむやで終わる可能性が高いといわざるを得ないのだが……。
国家的イベントとパチンコ業界の意外な関係
さてパチンコ業界はといえば、オリンピック・パラリンピック期間中も平常運転が続いている。これまでオリンピックの様な国家的イベント、例えば先進国の首脳が集まるサミットなどが開催される際には半ば決まりごとのように行われてきた入替自粛も今回はなし。集客に最も効果的と考えられている新台の導入が一定期間ストップする入替自粛は、ホールの立場としては当然ながら行われないほうがいいだけに胸をなで下ろしている店長も少なくないだろう。
どうして国家的イベントで新台入れ替えを自粛してきたかといえば、前述した様に開催する地域以外からも警察官が集められ、全国的に警察業務にあたる人出が足りなくなるからというのが理由。
そして警察を監督官庁とするパチンコ業界にとして、新台入れ替え時に不可欠な警察検査(新機種や中古機を問わず、遊技機を新たに設置した際には所轄の担当官が製造番号などをチェックする)によって警察業務に負担をかけないためという、いわば忖度から行われてきたのが入替自粛だ。全国的ではなくても何かしらの大々的な警備が必要な行事がある場合には該当地域だけの入替自粛なども行われており、実際に入替自粛中は稼働が落ちるとも言われている。

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なぜ自粛しなかったのか人流は増えていないと言うが……
自粛は既定路線だったが……
ではどうして、今回の東京オリンピックでは入替自粛が行われないのか。新台を販売する側のメーカー関係者によると、またホール関係者からも昨年のコロナ前の段階、つまり世界中から多くの観客が集まり祝祭ムードのなか盛大に東京オリンピックが開催されると誰もが期待していた頃には、入替自粛は規定路線だったという。
実際、旧規則機(パチンコのCR機、パチスロの5号機)から新規則機(P機、6号機)の計画的な移行を即すためにホール団体が示した旧規則機の削減目標においてもオリンピック期間中は空白となっていたが、コロナ禍によってその目標も実質的に白紙に。
本来なら今年の2月には旧規則機が完全に市場から姿を消し、完全な新規則機時代が到来していたはずだったが、昨年の5月にはコロナ禍の影響を鑑みた行政が旧規則機撤去の1年延長を決定。これで延命できたホールも少なくないが、それでも旧規則機の撤去は来年1月末と、もはや待ったなしとなっているのは間違いない。
旧規則機撤廃問題が絡む事情
設置できる期限は残り少なくなっているとはいえ、それでも旧規則機の占めるシェアは業界団体による5月末の時点でパチンコが約3割、パチスロでは約5割もある。ホール軒数が減り続けているため正確な数字ではないが、昨年末の数字として警察庁が発表した遊技機設置台数から推計すると、パチンコもパチスロもそれぞれ約70万台以上が残っていることになる。
今後も営業を続けていくためには、これだけの旧規則機を約半年という短い時間で新規則機へと入れ替えなければならないのだ。もちろんこれからの半年でホールの廃業ペースも加速すると思われ、同時にベニア入れ替えと呼ばれる遊技機をとりあえず外してベニア板で隠すようなことも増えると予想されるが、それだけせっぱつまっている以上はオリンピック期間中といえども入れ替えをストップできない現状といえるだろう。
今年に入り、まだオリンピックが本当に開催されるかどうか明確になっていないタイミングで行われたメーカー関係者の会合でも「(入替自粛は)やりません」とそれなりの立場の人物が明言したという話もあるが、これは行政への忖度が困難なほど追い込まれていることの表れともいえそうだ。
今年の4月からは、東日本大震災からのパチンコバッシングを理由に自粛していた遊技機のテレビCMも解禁されているが、これも新規則機への入れ替えを促したいというメーカー団体側の意向によるものなのだ。
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業界の懐事情も……
半導体不足と供給の遅れ
だが、ホール側も1台50万円もするような新機種をそう簡単に購入できず、本当に前評判が良い機種以外は買い控えているのが現実だ。結果、売れる機種しか売れないというのが状況もあるが、世界的な半導体不足もあってメーカー側も注文全てに応えられないという切実な問題もある。導入後も評価が落ちない黄金騎士シリーズ最新作などは需要に対し供給が圧倒的に足りず、結果として中古価格が新台価格の4倍以上に高騰する事態にもなっている。
それでも事業を継続するためには現段階で残っている旧規則機に近い台数の新規則機が必要になるだけに、ホール側としては予算が許す限りの新機種を買い、供給する立場のメーカー側もそれに応えるべく新機種数を用意しなければならない。そのためには今から徐々にでも入れ替えをしていかなければならず、入替自粛として行政へ協力している場合ではないということだ。
ただコロナ禍以降、人との接触機会を減らしたい(設置期限の1年延長の目的でもある)として入れ替え時の警察検査において担当官の目視を求めず、書類だけ提出すれば良いという所轄も増えている。事務処理は必要だがわざわざホールへ足を運ぶ手間がなくなった以上、もはや国家的イベントでも入替自粛など忖度する必要がないという判断もあったのではないかと邪推をしたくなるのは筆者だけではないだろう。
忖度すらできない懐事情
もともと検査といっても単に製造番号をチェックするだけで、かつて違法改造されたパチスロの裏モノなどを平気でスルーしていたのが警察検査だ。数年前のパチンコにおけるクギ曲げ問題ではゲージ棒(今は建前上、行われていないとされるクギ調整で使う道具)を持ってきた担当官もいたというが、そんなやる気のある担当官は極めて少数派であり、そういう担当官がいたというのが遠く離れた地域のホール関係者の間で噂話になるほど。
ちなみにだが、入替自粛はあくまで「自粛」であり、行政側から要請されることは一切ないという。何度も使って恐縮な言葉だが、つまりは「忖度」であり、行政に対しては積極的に協力してきた業界の慣例。それさえも踏襲できなくなっているくらいに追い込まれているのが、今の業界なのだろう。